映画『わたしたちの宣戦布告』

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

この映画について

スタッフ/キャスト

ヴァレリー・ドンゼッリとジェレミー・エルカイム

監督・主演:

ヴァレリー・ドンゼッリ(ジュリエット)

1973年生まれ。1998年にMarc Gibaja監督の短編映画『Herbert C. Berline』で女優デビュー。2001年、サンドリンヌ・ヴェッセ監督『マルタ...、マルタ』に主演し、ミシェル・シモン賞を受賞。ジャン=パスカ ル・アトゥ監督『待つ女』(2006年)でバレンシア地中海映画祭最優秀女優賞受賞。2007年に初監督作品の短編『Il fait beau dans la plus belle ville du monde(美しい町)』、2010年に長編第一作『彼女は愛を我慢できない』を発表。本作『わたしたちの宣戦布告』は長編第二作。パリ、オペラ座を舞台にした次回作『Main dans la main(手に手をとって)』が2012年12月にフランスで公開予定。

主演:

ジェレミー・エルカイム(ロメオ)

1978年生まれ。17歳でオリビエ・セロール監督短編作品『Un Leger different(わずかな相違)』に出演し注目を集める。その他の代表作はセバスティアン・リフシッツ監督『Presque rien(夏の終わり)』(2000年)、マイウェン監督『Polisse』(2011年)など。実生活でのパートナーだったヴァレリー・ドンゼッリ監督 『彼女は愛を我慢できない』では4役を演じる。パートナーを解消してからも、ドンゼッリとは共に仕事を重ね、二人の実話を描いた本作『わたしたちの宣戦布告』では、共同脚本を務めている。

インタビュー

ヴァレリー・ドンゼッリ
ジェレミー・エルカイム
ヴァレリー・ドンゼッリとジェレミー・エルカイム

『わたしたちの宣戦布告』は、病気の子供の話ですが、それよりもまず貴女がカメラにおさめるのは子供の病気という試練に直面したカップルの話ですね。なぜ子供ではなくカップルに焦点を当てたのでしょうか?

ヴァレリー:

私の関心はラブストーリーを語ることにありました。この試練のフィルターを通したラブストーリーです。もともとロメオとジュリエットはのんきな若者で、戦う準備などまるでできていなかったカップルです。しかし彼らは、立ち向かううちにけっこう善戦している自分に驚き、いつのまにかヒーロー然と行動しているのです。のんきなカップルは、試練に立ち向かうカップルとなり、責任感のある大人になるのです。

恋愛関係というのは、ある種、脳天気なもので、自分たちの愛を破壊するものなんて何もないという確信の上に成り立っています。けれど子供の入院を機に、ロメオとジュリエットはルーティーンの生活に埋没します。彼らの子供が生き延びるためには、何かが死ななくてはならない。つまり恋愛関係です。それと同時にこの試練は2人の絆を構築し強化し、完全に補完的な存在となります。

映画を貫くスピード感やテンポが印象的で、病院の中や路上でも、常に二人が走っている、その疾走感がとても印象的でした。スピード、テンポを表現するにあたり、どんなところにポイントを置いたのでしょうか?

ヴァレリー:

フィジカルな映画が作りたかったんです。最初は、35mmの手持ちカメラで撮影しようしたのですが、キャノンの5Dだと35mmカメラよりももっとスピーディーな感じが出る、と思いました。まるで全自動洗濯機のように、常にノンストップで走っているような雰囲気を出したかったのです。

ジェレミー:

僕達がこの映画で特に大事にしたかったことは、コンセントに指を突っ込んだようなエレクトリックな感じ…常にそういうビリビリしているような、常に動き回っているような感じで、この主人公達に付き添いたい…そうすることで親密感が生まれ、彼女達のアバンチュール、アドベンチャーというのが、僕らの望んだように描けると思ったのです。

ヴァレリー:

最後のスローモーションの部分だけ、35mmのカメラを使用しました。人間というのは、何か大きなドラマだとか事故とかショックなことが起きると、まるで時間が止まったような気持ちになりますよね。時間の感覚がなくなって、1分が1時間に感じられたり、1時間が一瞬のように思えたり。そういうことを映画の中で表現するというのが面白いと思ったのです。だから、子供の病気の…前半部分というのは、かなり伸ばす感じで撮りました。現実に対する感覚というのを、時間感覚、テンポで表現しようと思ったんです。実際に人が感じたようなことをね。

子供が病気、というテーマは、普通、相当シリアスな話になってしまうはずですが、コメディの要素も入れた理由は何でしょうか?

ヴァレリー:

自分達2人の経験だからこそ、それをいかようにも使える自由がありました。どう痛めつけてもいいし、揺さぶりをかけたっていいわけで。「神聖なもの」として扱わなくてもいいし、尊敬の念を持って扱わなくてもいい。それに、実生活でも、すごくドラマチックな時でも愉快なことがあったり、お葬式でも笑ってしまったり…。コミカルな部分もあれば、ドラマチックな部分もあって、それが混ざり合っていますよね。それが人間の生活だと思うのです。私がコメディを取り入れるのがとても好きなのは、状況に対して、真正面から扱うのではなくて、ユーモアを取り入れることによって、ちょっとした慎み深さを生み出すことができるからです。そのちょっとしたズレみたいなもの、それは私達にとって貴重なことなのです。

ドラマチックな事件の当事者ならではの、親密で本能的な感情を描きながら、観客の誰もが自己投影できる映画に作り上げるために気を配ったことは?

ヴァレリー:

自己中心的なテーマから出発しても、そこからズームアウトして、より普遍的なことを語る、それこそが映画のもつ力だと思います。子育てに関する考え方、親であるということ、子供が生と死の境にいるという最悪の状況に直面すること。そして生き方について!

この映画は私の心の奥に長いあいだ温めていた企画で、ある時、今こそ撮るべきときだという瞬間が訪れたのです。映画の制作に関わっていることで、自分の体験に対して距離をとることができました。映画とは、現実の再現、演技です。すべて作り物。本物なんてひとつもない。あるのは真実とリアリズムに対するこだわりです。

ジェレミーと私の子供も重病にかかり、ここで描かれている現実も私たちの体験にとても近いという意味では自伝的作品ですが、かといってイコール私たちの物語ということではないのです。

確かに最初は、自分自身が演じるということに戸惑いがありました。けれど、主人公たちの名前を「ロメオとジュリエット」にしよう、というアイデアを思いついたとき、現実とフィクションの距離を見つけることができました。

ロック、クラシック、映画音楽、エレクトロなど、ジャンルや新旧織り交ぜた音楽が素晴らしいですね。音楽に対するこだわりを教えてください。

ジェレミー:

フィジカルな、ジェスチャーみたいな映画にしたいと思っていたので、ひとつひとつのシーンにおいて音楽がどう働くか、を考えました。本能に音楽が付き添う感じを目指しました。

ヴァレリー:

脚本を書いている段階で音楽は頭にありました。ジェレミーは音楽に非常に造詣が深いのです。ローリー・アンダーソンの「オー・スーパーマン」は、最初は、別の音楽があのシーンには用意されてたのです。でも、編集時になって映像とあまりマッチしていない感じがして、音楽はなしにしようかと思いました。それをジェレミーに話すと、彼はしばらく考えてから、「これ聴いてみて」と。それがローリー・アンダーソンのあの曲だったのです。「これだっ!」と思って、CDをもって編集室に行きました。その時、ジェレミーはまだ編集後のそのシーンの映像を観ていなかったのですが、でも、音楽が映像にぴったりだったのです。それで、編集のポーリーヌと「私達には音楽の守護神がついてるのね」と話しました。

タイトルの「宣戦布告」というのは何に対しての「宣戦布告」なのでしょうか?

ヴァレリー:

もちろん最初に「宣戦布告」した相手は、シンプルに「子供の病気」でした。でも、後になって、これは色々なものに対して戦いを挑んでいるなと思い始めたのです。特にカンヌ映画祭の時に、ジェラール・フォールという映画評論家が素晴らしい批評をしてくれました。「この作品は、社会の凡庸性、くだらなさ、個人主義、人間の意地悪さ、愚かさ、そうしたものに対しての“宣戦布告”だ」と言ってくれて、まさにそのとおりだと思いました。フランス人というのは反抗精神旺盛な国民ですが、ジェラール・フォールが「これは、人生に対するひとつのデモみたいなものだ」と言っていましたし、とても良い言い方だなと思いました。

もうひとつは、フランス映画のプロダクションシステムに対する「宣戦布告」とも言えます。フランスでは資金調達というのは、それほど難しいことではありません。ですから、大きな予算を使って、キャストの俳優達は非常に高い報酬をもらって…という製作システムも存在しているわけです。でも、この作品は全然お金がかかっていないのです。技術スタッフも8人だったので、それぞれが色々な役割をしましたよ。

ジェレミー:

社会は、私達にレッテルを貼りたがりますよね。例えば、病人だったら病人らしくとか、貧しかったら貧しいらしく、とか。我々はそれに対して反抗しているのです。私たちは1つのレッテルでおさまるような人間じゃない、人間というのは色々なものを持っているんだと。環境や状況が変わっても…ドラマが起こっても、自然災害が起こっても…自分のアイデンティティを持ち続けるんだという意思表明でもあるし、そういうことをシェアするラブストーリーでもあるんです。

この映画にキャッチコピーをつけるとしたら?

ジェレミー:

“新しい愛のかたち”

ヴァレリー:

“自分を破壊する一歩手前の負荷が、自分を強くしてくれる”
(注:ニーチェの言葉より)