映画『アルマジロ』

この映画について

若い兵士たちは緊迫した戦地を懐かしく思い、 故郷での毎日に退屈さを募らせているように見えた。 まるで中毒ではないか。― ヤヌス・メッツ監督

私はこの作品『アルマジロ』で、戦争のミクロなレベルが――つまり現場のちょっとした人間関係が――現代最大の戦争にどのような影響を与えているのか追いかけたかった。戦地での実戦は、政治とどのように関わっているのだろうか。

リサーチの早い段階で若い兵士たちと会った時、彼らが既に実戦を経ており、そのうえで戦地へ戻りたがっているのを知って驚いた。兵士たちは、暴力的で血なまぐさい経験をしてきたはずなのに、戦闘の様子や、戦友との強い絆や一体感についてひどく生き生きとした様子で話すのである。緊迫した戦地を懐かしく思い、故郷での毎日に退屈さを募らせているように見えた。まるで中毒ではないか。

そうした状態を不思議に思い、私も兵士たちと同じ目線で映画を撮りたくなった。彼らはなぜ戦争に行きたがるのか? 世界を変えたいと思っているから? 単に血が騒ぐから? 個人的な野心から? それとも、何か別の理由から? そしてそうした動機は、彼らの人間関係に対し、そして戦争全体に対してどのような影響を与えているのだろうか。彼らの"中毒状態"がアフガニスタンの戦況に及ぼす影響は? 難しい局面における兵士の判断力への影響は? 外国人が国内にいるということは、アフガニスタンの人々にとってどんな意味があるのだろうか? "民主化への戦い"を指揮する国々の若者のほうが、逆に影響を受けることもあるのだろうか?こうした状況を見つめることで、現代の若者たちについて何が分かるのだろうか?

私はずっと、人生を変えるような経験をした人々についての映画を作りたいと思ってきた。そうした経験はある意味で通過儀礼であり、当事者は自分自身や、自分の人間性と正面から向かい合う羽目になる。いわば、普遍的で基本的な経験なのだ。戦争と、そこに駆り出された若者たちという文脈で私が突き詰めたかったのは、男性的な感覚や、善と悪、文明と野蛮さといった要素がいかに行動に反映されるか、いかに"次なる世代"の物語に適用されるか、ということである。

監督 ヤヌス・メッツ

監督

ヤヌス・メッツ

1974年デンマーク生まれ。ロスキレ大学でコミュニケーション・国際開発研究学の修士課程修了。ドキュメンタリー映画プロジェクトの調査員として働く。2002〜2003年、南アフリカのドラマ『ソウル・シティ』のためにヨハネスブルグに滞在した経験が、初の短編ドキュメンタリー『タウンシップ・ボーイズ』(2006年)を作るきっかけになる。また、2006年デンマークの国営放送局DRの番組のために、アフリカからサハラ砂漠を経由してヨーロッパを目指す非合法移住者たちのドキュメンタリー『密入国(Eventyrerne)』を制作。2008年に監督した『タイから汝へ(Fra Thailand til Thy)』(デンマーク北部の町におけるタイ人女性とデンマーク人男性の国際結婚についてのドキュメンタリー)でコペンハーゲン国際ドキュメンタリー映画祭の最優秀短編ドキュメンタリー賞および最優秀TVドキュメンタリー賞を受賞。2010年の『アルマジロ』でカンヌ国際映画祭批評家週間グランプリなど、多数の映画祭で受賞している。