「映画を作ることは魔法をかけることである」
時代を越え、ジャンルを越え、名だたるクリエイターに多大なる影響を与え続けているアンガーの呪術的イメージの集大成「マジック・ランタン・サイクル」がHDリマスター版で蘇る!
『アンダー・ザ・シルバーレイク』の元ネタというべき、ハリウッド黄金期の闇の歴史を暴いた『ハリウッド・バビロン』の著者。アレイスター・クロウリーに傾倒した魔術師。マーティン・スコセッシ、 デヴィッド・リンチ、 デレク・ジャーマン、R.W.ファスビンダー、デニス・ホッパー、ガス・ヴァン・サント等、数多のクリエイターに影響を与えたアンダーグラウンド映画界のヒーローと、様々な顔を持つ男、ケネス・アンガー。彼に関わりを持つ人々も、ミック・ジャガーや当時ミックのガールフレンドだったマリアンヌ・フェイスフル、作家のアナイス・ニン、レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジと一筋縄ではいかない。そしてアンガーの作品で重要な役割を担うボビー・ボーソレイユは、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で描かれたシャロン・テート事件の首謀者チャールズ・マンソンの「ファミリー」であり、自身も殺人罪で無期懲役中だ。
近年、 エンパワメントやフェミニズムといった観点からも、“魔女”“魔術”“オカルト”などが注目されるなか、GUCCIの2019年キャンペーンでアンガー自身がモデルに起用され、アンガーの魔術的な世界は再度脚光を浴びている。現代のミュージックビデオやCMの始祖と言われる鮮烈な映像は、時代を越え、ジャンルを越え、色あせることなく私たちを魅了する。
※本上映「マジック・ランタン・サイクル」は、9作品を2つのプログラムに分けて上映いたします
B_PROGRAM (Total:71min)
魅惑的なイメージと音楽のコラージュがミュージック・ビデオの原型と言われるアンガーの最高傑作『スコピオ・ライジング』、男がただただ改造マシン を磨き上げる『K.K.K.』、古き良き20年代のモード『プース・モーメント』、ほろ苦く甘いファンタジー『ラビッツ・ムーン』、アンガーが17歳で監督した『花火』など、アンガーの憧れが詰まったフェティッシュ・サイド。
①『スコピオ・ライジング』
②『K.K.K. Kustom Kar Kommandos』
③『プース・モーメント』
④『ラビッツ・ムーン』
⑤『花火』
悪魔的イメージサイド A_PROGRAM (Total:90min) はこちら から
【作品情報】
B_PROGRAM (Total:71min)
①『スコピオ・ライジング』 (1963年/カラー/29分)
ポップソングにのせバイカーたちの日常とレザーやバイク、スタッズなどをフェティッシュに描き、デヴィッド・リンチ、ギャスパー・ノエ、ニコラス・ウィンディング・レフンなど後代の映画作家に影響を与え、ミュージック・ビデオの元祖とも言われている。ブルックリンで現地のバイク好きの若者たちに声をかけ、彼らの素の姿を収めることをアンガーは狙った。マーロン・ブランド主演の『乱暴者』が映るテレビ、ジェームズ・ディーンの写真が貼られた壁や名誉除隊の書類も実際に彼らのもの。ボビー・ヴィントン『ブルー・ヴェルヴェット』、エルヴィス・プレスリー『悲しき悪魔』などの作中流れる音楽は、当時ラジオで流れていたアメリカのポップソングという基準で13曲使用。なお、作中に突然宗教的なシーケンスが挿入されるが、これは今作の編集中に教会の日曜学校用のフィルムが間違って玄関先に届けられていたものを借用したという。
②『K.K.K. Kustom Kar Kommandos』 (1965年/カラー/4分)
若者、ドラッグレース、カスタムカーをテーマにしたこの企画は、『スコピオ・ライジング』の後、当初長編として制作される予定だったフォード財団から1万ドルの助成金を得ていたもののアンガーはそれを他の用途に使用したため資金不足により頓挫し、3分間のこの作品だけが完成した。Kommandosが複数形となっているのはその名残で、実際にはひとりの若者だけが取り上げられている。3つの単語の最初のスペルがKになっているのは、ティーンエイジャーたちがこのような小さなアイディアで大人が入り込めない自分たちだけの世界を構築していることを表現するためだと、アンガーは語っている。フィーチャーされている楽曲も、ボビー・ダーリンのナンバーをザ・パリス・シスターズがカバーした「ドリーム・ラバー」だけに、自分の愛車をパフで愛でるように磨く青年と改造車のラブストーリーと表現したい作品。
③『プース・モーメント』 (1949年/カラー/6分)
基は『プース・ウィメン』という40分の作品になる予定だったが、アンガー曰く家族からの援助がもらえずこのバージョンとなった。タイトルは作品に登場する20年代ハリウッドで人気だったピュース色(暗い紫味の赤褐色)のドレスに由来する。その次代のハリウッド・スターがくつろぐ豪華な生活を映像化しており、映画で使用されたドレスは、無声映画の時代に衣装デザイナーであったケネス・アンガーの祖母が所有していたもの。クララ・ボウやメイ・マレーといった女優が実際に着ていたドレスが使用されている。女優を演じるのはイヴォンヌ・マルキス。アンガーによるとこの映画の後、彼女はメキシコに移りカルデナスの大統領愛人になった。音楽を担当したのはジョナサン・ハルパー。2014年に人気バンド、フランツ・フェルディナンドが挿入曲「Leaving My Old Life Behind」をカバーしている。
④『ラビッツ・ムーン』 (1950年撮影、1971年完成/カラー/16分)
ベースとなっているのは、コメディア・デラルテというイタリアの仮面即興劇で、そこに「月にウサギがいる」という日本の昔話がモチーフになっている。満月に思い焦がれる悲劇的なピエロが主人公で、彼が憧れている娘コロンビーヌと悪魔が変装したペテン師のハーレクインのコミカルな三角関係と神話的なモチーフが同居している。1950年にアンガーがジャン・コクトーに憧れフランスに滞在している際に撮影されたものの、その後日の目を見ず未完成のままだった。1971年に完成した16分のバージョンでは当時のドゥーワップが多用されている。1979年の7分のバージョンはスタン・ブラッケージの息子ロークの誕生会で上映するために、倍速でコマ飛びしでプリントした素材を使用し、よりコミカルさが強調されている。繰り返し使用されている音楽は、A Raincoatというバンドの「It Came In The Night」。
⑤『花火』 (1947年/白黒/15分)
アンガーが17歳の頃に監督・撮影・編集・主演を兼ね完成させた、実質上の処女作。ハリウッドにあるアンガーの祖母の家で、家族が出かけている間に撮影された。撮影助手は写真家のチェスター・ケスラーが担当し、音楽はイタリア人作曲家レスピーギのレコードを使用している。性的な妄想にとりつかれた少年をアンガー自身が演じている。大挙して押し寄せる水兵たちに少年が暴行を受けるなどのサド・マゾ的、同性愛的描写や、ペニスが花火に変わるといった性衝動のイメージにより、作品が発表されるとアンガーはわいせつ罪で逮捕されてしまう。事件はカリフォルニア州最高裁判所に持ち込まれたが、裁判所はポルノではなく芸術であると見なし、彼は無罪となった。この作品をきっかけに性科学者アルフレッド・キンゼイとの交流が始まり、1956年にキンゼイが亡くなるまで友情を育んだ。
ケネス・アンガー
1927年2月3日、カリフォルニア州サンタモニカ生まれ。ハリウッドで衣装担当として働いていた祖母の影響で、映画や芸術への興味を持ち始め、『真夏の夜の夢』(1936)には、子役として出演。10歳頃から映画を撮り始め、1947年の『花火』では、ジャン・コクトーやテネシー・ウィリアムズから絶賛された。1959年にはハリウッドのゴシップを書籍にまとめ『ハリウッド・バビロン』と題してパリにて発行。近年では、ショートフィルムの製作を続けつつ、 “光とサウンドの魔術儀式”である「Technicolor Skull」を結成し音楽活動をしたり、ヴァレンティノのショーやミッソーニのキャンペーンへの映像提供なども行っている。
ケネス・アンガー「マジック・ランタン・サイクル」HDリマスター
配給・宣伝:アップリンク
VIDEO