監督インタビュー
─撮影はどのくらい、何カ国にわたりましたか?
1年間にわたって10カ国(メキシコ、パラグアイ、米国、ベトナム、インド、英国、イタリア、スイス、ノルウェー、フランス)で撮影しました。あらかじめインターネットで調べた数十人の証言者にインタビューを行い、モンサントの主張と現実の彼らを照らし合わせました。
─インターネットを効果的に使用した構成になっていますが、意図するところはあったのでしょうか?
2つ目的がありました。ひとつは、すでにインターネット上にたくさんの情報があり、われわれはモンサントの犯罪をこれ以上、見て見ぬふりをすることはできないと伝えるためです。情報源の大半はインターネット上で入手可能なものです。もうひとつは、私自身がモンサントから告訴されるのを避けるためです。
─撮影時や取材時、そして放映後、モンサントからの圧力はありましたか?
モンサント社は人を雇って、どうにかして私を訴えることができないか調査していましたが、私が糾弾している内容をつぶさにチェックして、結局はあきらめました。また、彼らは私の信用を失墜させようと、広告代理店を使って私のブログのコメント欄や掲示板に書き込みをしていました。しかし彼らの負けです。このドキュメンタリーは42カ国で放送され、書籍も16カ国語に翻訳されました。映画のタイトルでグーグル検索すれば、山ほどリンクが出てくるでしょう!
─現在、日本の農業を取材していますが、どこに魅力を感じ、きっかけはなんでしたか?
日本は、“提携”発祥の地であり、これは世界的に広がりつつある有機農家と消費者を結ぶ新しい流通のモデルになっています。私は現在、世界の人々に食糧を供給する手段としてのアグロエコロジーについて、ドキュメンタリーを制作しています。また次のドキュメンタリーとして、福島事故後に日本の農業がどうなったかについても撮影中です。
─フランスでは、遺伝子組み換え食品が禁止されていますが、どうして消費者の意識は高まり反対に踏み切れたのでしょうか?
フランス人は、きちんと料理をして良い食生活を送ることに重きを置いています。遺伝子組み換え作物のように、正しくテストされていない自分の食卓に取り入れたくないのです。
─日本も遺伝子組み換え禁止にするには、ひとりひとりが意識を変えねばなりません。どのような働きかけをすればよいでしょうか?
一番いいのは、遺伝子組み換えの歴史とモンサントの1世紀に及ぶ犯罪行為を、人々に知らしめることではないでしょうか。
─日本も現在TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)という経済のグローバル化の岐路にあります。日本のTPP参加について、どうお考えですか?
TPPの問題は私が最近制作した番組の中のNAFTA(北米自由貿易協定)の問題が参考になるのではないでしょうか。メキシコを取材しましたが、本作で描いたように日本ではお米に相当するメキシコの主食トルティーヤとなる多様なトウモロコシが栽培されています。それが自由貿易ということでアメリカから工業化された農業で作られたトウモロコシが押し寄せ在来種が絶滅の危機にさらされています。しかも自由貿易というのは決して相互に平等なことではありません。 自由貿易という名のもとで、メキシコ政府はメキシコの小さな農家の助成金や支援をカットしなければならなかった。それなのにアメリカ政府は大規模なアメリカの農家に助成金を与えているのです。そのために北米の助成金を受けた遺伝子組み換えのトウモロコシがメキシコを席巻してしまったのです。私は食料に関しては、自由貿易という概念は成立しないと思っています。
マリー=モニク・ロバン Marie-Monique Robin
フランス人ジャーナリスト、ドキュメンタリー映像作家。
1960年、フランスのポワトゥー=シャラント地方の農家に生まれる。ストラスブールでジャーナリズムを学んだ後、フリーランス・リポーターとして南米に渡り、コロンビア・ゲリラなどを取材。
1995年、臓器売買をテーマにした『Voleurs d'yeux(眼球の泥棒たち)』でアルベール・ロンドレ賞受賞。
2003年、アルジェリア戦争でのフランス軍による拷問や虐殺を扱った『Escadrons de la mort, l'école française(死の部隊:フランスの教え)』でFIGRA(社会ニュースレポート&ドキュメンタリー国際映画祭)優秀研究賞ほか受賞。
2008年、本作『モンサントの不自然な食べもの』でレイチェル・カーソン賞(ノルウェー)、
ドイツ環境メディア賞ほか数々の賞に輝く。
現在、3.11以降の福島の農家を取材し、アグロエコロジー、農業を中心とした継続的な社会をテーマにした、世界のオルタナティブ農家を追った作品を制作中。
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