現在ますます活況を呈しているアメリカのアヴァンガルド・ムーヴィ/実験映画作品を、活動の拠点をアメリカに置く映像作家/キュレーター・西川智也のセレクションで紹介する特集上映企画の第3 弾。近年アメリカで制作された新作、話題作の中から、「In Between」「Shapes and Hues」というテーマによって厳選し、2 プログラムで構成した一日限りの特別プログラム。
上映作品紹介
【プログラム1】
「In Between」(計66.5分)
プログラム1では、アメリカで制作され話題となりながらも、未だ日本で上映されていない作品の中から、場所、空間、そしてそれらの「間」をテーマに、アメリカの日常風景を題材とした作品、テレビ番組の映像を使ったファウンド・フッテージ作品、また今年グッゲンハイム・フェローに選ばれたピータ・バーによるプログラミング映像作品『パターン・ランゲージ』を含む7作品を紹介する。
『定義された空間』ブリタニー・ガンダーソン
Space Defined (Britany Gunderson, 6 min., 2017)
作家がこれまで住んだ場所を訪れ、建築物を構成する線と形、その中でも映画を形成する要素のひとつである長方形に焦点を当てたデジタルビデオ作品。被写体と作家との間に強い関係がありながらも私映画的な要素はなく、あくまでも線と形、または平面と立体といった関係をユーモラスに表現する。
『マップ・トゥ・イン=ビトウィーン』カティア・ヤクボフ
Maps to the In-Between (Katya Yakubov, 7.5 min., 2015)
グーグル・ストリートビューの画像によって構成されたデジタルビデオ作品。時間の止まった風景は、そこに偶然居合わせた人々によってドラマを喚起させ、ときに画像処理は日常風景を心霊写真のように変化させる。また、スクリーン上を動き回るカーソルによって、作家自身のパフォーマンス的な要素も含んだ作品。
『インターセクション』ヴァンサン・グルニエ
INTERSECTION (Vincent Grenier, 7 min., 2015)
作家が生活する、ニューヨーク州イサカ近くの幹線道路沿いで撮影したデジタルビデオ作品。忘れな草とタンポポを背景に行き交う車両は、作家が使用したカメラの特性と動画の編集・加工によって被写体と時間が歪められ、裸眼では見ることのできない風景を映し出す。
『トラベル・ストップ』マイク・ギビザー
Travel Stop (Mike Gibisser, 16 min., 2018) ※日本語字幕付上映
アイオワ州ウォルコットにある、世界最大のサービスエリアで撮影された16ミリ作品。給油や休息のために立ち寄った人々と、店内に陳列された商品の映像は、中西部の地域だけでなく、アメリカという国の社会や文化を形成する特性の一部分を映し出す。
『ニュートラル・ゾーン』LJ・フレザ
The Neutral Zone (LJ Frezza, 5 min., 2015)
1987年から1994年に放映されたアメリカのSFテレビドラマ『新スタートレック』の映像を編集して作られたファウンド・フッテージ作品。人物が全く登場しないシーンをつなぎ合わせた映像はドラマ性を欠き、無機質で人工的な空間が、観客に漠然とした不安を駆り立てる。
『パターン・ランゲージ』ピータ・バー
Pattern Language (Peter Burr, 10.5 min., 2017)
イギリスの数学者ジョン・ホートン・コンウェイが考案した「ライフゲーム」のアルゴリズムによって変化するドット映像と、昔のビデオゲームを想起させる映像によって構成されたモノクロ・デジタルビデオ作品。反復しながらも常に変化し続ける映像は、モアレによって様々な縞模様を作り出し、簡素化され個性をなくした人物は、出口のない迷宮を機械的に徘徊する。
『アンダー・アトモスフィア』マイク・ストルツ
Under the Atmosphere (Mike Stoltz, 14.5 min., 2014) ※日本語字幕付上映
ケネディ宇宙センターがあるフロリダのスペース・コーストと呼ばれる場所で撮影された16ミリ作品。この地で育ち、その後ロサンゼルスへ移り住む作家の個人的な想いだけでなく、かつてアメリカ国民が宇宙開発に夢を抱いていた時代をノスタルジックに描き出す。
【プログラム2】
「Shapes and Hues」(計61分)
プログラム2では「形」と「色」をテーマに、2台の16ミリカメラで撮影した映像を35ミリにブローアップしたジョシュア・ゲン・ソロンズのフリッカー作品『月と黒い太陽』と、昨年ニューヨーク近代美術館(MoMA)で上映され話題となったライダ・ラーチュンディの自叙伝的な作品『025 サンセット・レッド』(共に日本初上映)を含む6本の16ミリ・35ミリ作品(デジタル版での上映)を紹介する。
『月と黒い太陽』ジョシュア・ゲン・ソロンズ(吉村元)
Luna e Santur (Joshua Gen Solondz, 11 min., 2016)
白装束で体全体を覆ったふたりが儀式的な行為を繰り広げる35ミリ作品。セックスを思い起こせるその行為は、自家現像によって退色し傷ついた映像とフリッカー効果によってより神秘的またはカルト的な要素を増し、他者が立ち入ることを拒む。
『表面の形状』ナズリ・ディンセル
Shape of a Surface (Nazli Dincel, 9 min., 2017)
トルコの遺跡で撮影された16ミリ作品。レンズの前に置かれた鏡によって、スクリーン上にふたつの視点を交差させ、朽ち果て修復される古代建築物と、若くたくましいがいずれ老いゆくであろう肉体を被写体に、撮影という行為を記録した映像を映し出す。
『バッド・ママ、フー・ケアーズ』ブリジッド・マキャフリイ
Bad mama, who cares (Brigid McCaffrey, 12 min., 2016)
カリフォルニア郊外の砂漠地帯で生活する地質学者レン・ララタンを撮影した16ミリ作品。彼女の日常を飾る様々な色によって被写体の印象を描き、マスキング技術によって撮影時に加工された映像は、平面性を強調するとともに被写体を抽象化する。
『ヘリオス』エリック・スチュワート
Helios (Eric Stewart, 5 min., 2018)
サボテンを低速度撮影(タイムラプス)によって撮影した16ミリ作品。室内の無風空間を光の変化とともに揺れながら、サボテンがゆっくり成長する様子を映し出し、その形状、色、動き、そして質感を情緒的かつ詩的に表現する。
『センチュリープラント・イン・ブルーム』ロス・メクフェセル
A Century Plant in Bloom (Ross Meckfessel, 10 min., 2017)
複数の都市・国で撮影された16ミリ作品。様々な文化と地域を映し出す風景は、日常と非日常を交錯させ、唯一登場する女性、またはカメラの視点の持ち主を主人公とした不明瞭なドラマを暗示する。
『025 サンセット・レッド』ライダ・ラーチュンディ
025 Sunset Red (Laida Lertxundi, 14 min., 2016) ※日本語字幕付上映
作家の父親がスペインバスク地方で政治家だった時の写真画像と、現在作家が生活するカリフォルニアで撮影した映像によって構成された16ミリ作品。スクリーン上に現れる「赤」は血、生命、情熱、愛、革命、または写真現像用暗室の赤い光を思い起こさせる。
【トークショー開催】
プログラム1終了後に西川智也による上映作品解説
プログラム2終了後に西川智也×金子遊×UMMMI.によるトーク
【トークゲスト】
西川智也(にしかわ・ともなり)
映像作家、映像キュレーター。ニューヨーク州立大学ビンガムトン校(ビンガムトン大学)映画学部助教授。
代表作に『Market Street』(2005)、『Tokyo – Ebisu』(2010)、『sound of a million insects, light of a thousand stars』(2013)など。キュレーターとして恵比寿映像祭、アナーバー映画祭、ドレスデン短編映画祭、サンフランシスコ近代美術館などで上映プログラムを紹介。
金子遊(かねこ・ゆう)
映像作家、批評家。アメリカと日本の実験映画を研究。
著書『映像の境域』(森話社)でサントリー学芸賞(芸術・文学部門)受賞。ほかの著書に『ドキュメンタリー映画術』(論創社)など。編著に『フィルムメーカーズ』(アーツアンドクラフツ)、『クリス・マルケル』『アメリカン・アヴァンガルド・ムーヴィ』(森話社)、『アピチャッポン・ウィーラセタクン』(フィルムアート社)など。慶應義塾大学ほか講師、ドキュメンタリーマガジンneoneo編集委員。
UMMMI.(うみ)
アーティスト、映像作家。愛、ジェンダー、個人史と社会を主なテーマに、フィクションとノンフィクションを混ぜて制作をしている。
映像インスタレーション《どんぞこの庭》(2016)でCAF賞2016岩渕貞哉賞受賞、『永遠に関する悩み』(2015)でイメージフォーラムフェスティバルヤングパースペクティヴ2016入選、MEC AWARD2016佳作、『デスクトップ・プレジャー』(2014)で第7回カイロヴィデオフェスティバル、オールピスト東京2014入選など。初の長編映画『ガーデンアパート』 (2017)が大阪アジアン映画祭オフィシャルコンペティション選出。