現在ますます活況を呈しているアメリカのアヴァンガルド・ムーヴィ/実験映画作品を、現在活動の拠点をアメリカに置く映像作家/キュレーター・西川智也のセレクションで紹介する。近年アメリカで制作された新作、話題作の中から、「ランドスケープと実体」「わびしいリアリティ」というテーマによって厳選し、日本未公開作を中心に2プログラムで構成した一日限りの特別プログラム。
2プロ上映後には、6月に新刊となる映画論集『映像の境域』(森話社)を上梓した、映像作家/批評家の金子遊氏をお招きし、本イベントのプログラム・ディレクターである西川智也氏とのトークを繰り広げる。『映像の境域』で、作家と理論の両面から実験映画に切り込んだ金子氏と、アメリカ実験映画の現在を内側から知る西川氏が語り合う貴重な機会となるだろう。
「ランドスケープと実体Landscape and Substances」(計75min)
プログラム1「ランドスケープと実体」では、アメリカで制作され話題となりながらも、未だ日本で発表されていない作品の中から、ある特定の地域の風景・景色を描き出す作品を中心に、被写体が表す形体、または作品を構成する形式をコンセプトのひとつにしている、16ミリフィルム作品(ビデオ版での上映)を紹介する。
『形式への回帰』ザカリー・エプカー
Return to Forms (Zachary Epcar, 10 min., 2016)
日常生活を取り囲む商品と、窓の外に広がる風景を撮影した映像で構成された作品。カメラによって捉えられた風景は、人間が裸眼で見るものとは異なる現象を映し出し、被写体が持つ幾何学的、もしくは有機的な模様が、人工物と自然が持つ美しさを対比する。
壊れた彫刻の一部のように見える被写体は、照明によって背景から切り離され、その物質性と立体性を強調するが、観客はその大きさを知るすべを持たない。赤、青、黄のライトで照らされた被写体は、日常性からも切り離され、多重露光によって構図を平面的に変化させる。
デスバレー国立公園とカリフォルニアのモノ湖などで撮影した映像で構成された作品。自然が創り出す様々な模様や形は、それらを形成するに至った長い年月を表し、そこに吹く風や波がもたらす動きは、自然の複雑な形状を創り出したはるか彼方の現象を示す。
2009年に製造中止されたコダック社のコダクローム・フィルムによって撮影された16ミリ作品。映像は、コダクロームが開発・生産されていたニューヨーク州から、このフィルムを最後まで現像していたカンザス州にある現像所までの旅程で撮影された。
『希望のためのひとつの記録』マーガレット・ロリソン
One Document for Hope (Margaret Rorison, 8 min., 2015) ※日本語字幕付上映
2015年春にメリーランド州ボルチモアで起きた暴動を16ミリフィルムで記録した作品。サウンドには、暴動中に交わされた日常的で事務的な警察無線の内容が使われ、映像はボルチモア上空を飛び回るヘリコプターと、その下で対立する警察隊と抗議する人々を映し出す。
アメリカ西海岸に存在する、開拓時代後に見捨てられた建築物、使われなくなった軍事施設、閉館したホテルやモーテル等を被写体に、3部構成によって作られた作品。固定カメラで捉えた映像と類似する構図/被写体によって、作品はカタログ的な要素を持ち、映像の美しさとともに、必要がなくなったものを放置するアメリカ社会のあり方を指摘する。
西川智也(にしかわ・ともなり)
映像作家、映像キュレーター。ニューヨーク州立大学ビンガムトン校(ビンガムトン大学)映画学部助教授。
代表作に『Market Street』(2005)、『Tokyo – Ebisu』(2010)、『sound of a million insects, light of a thousand stars』(2013)など。キュレーターとして恵比寿映像祭、アナーバー映画祭、ドレスデン短編映画祭、サンフランシスコ近代美術館などで上映プログラムを紹介。
金子 遊(かねこ・ゆう)
1974年生まれ。映像作家、批評家。慶應義塾大学非常勤講師、ドキュメンタリーマガジンneoneo編集委員。著書に『辺境のフォークロア』(河出書房新社)、『異境の文学』(アーツアンドクラフツ)、『映像の境域』(森話社)。編著に『フィルムメーカーズ』『吉本隆明論集』(アーツアンドクラフツ)、『クリス・マルケル』『アメリカン・アヴァンガルド・ムーヴィ』(森話社)、『国境を超える現代ヨーロッパ映画250』(河出書房新社)、『アピチャッポン・ウィーラセタクン』(フィルムアート社)など。劇場公開映画に『ベオグラード1999』『ムネオイズム』『インペリアル』がある。
主催:UPLINK・西川智也・五十嵐健司