『ギサロ』〔ヤケドを誇る人々(上)/ヤケドと涙の交換(下)〕(1987年/50分)
パプアニューギニアのカルリ族には「ギサロ」と呼ばれる儀式がある。それは二つの村落の間で行われる歌合戦であり、招待された歌い手は入念に着飾って、その場所にまつわる地名や樹木、鳥などの名前を歌詞に含め、物語にして歌い上げる。もしその歌に感動して落涙すれば、聴き手である村人はタイマツを近づけ、歌手にヤケドを負わせる。優れた歌い手は悲しみを与えた代償として体にヤケドを刻んでいく。
『女の島 トロブリアンド』(1976年、50分)
トロブリアンド諸島は母系社会であり、この島の主食であるヤムイモは男たちから伯(叔)母や姪に渡されるのだが、男たちが死んだ時、女達は喪に服し、生前の贈与に報いる。ヤムイモを通した交換が男女の間で行われることが示されるが、女たちの間で行われる不倫に関する裁判や若い娘たちが歌を歌いながら男性を誘うダンスなどとても興味深い。
20世紀初頭、イギリスの人類学者マリノフスキーはニューギニア島東方にあるトロブリアンド諸島を訪れ、貝殻で作られた首飾りと腕輪が島々の間で循環していくクラ(交易)を知る。それから半世紀、カヌーの船団を組んで、風を頼りにクラ交易を行う島を目指した海上の長い旅と貝殻の装飾物が手渡される様子を見事にカメラに収めた。その後、クラ交易は形を変えて行われることになり、歴史的に貴重な映像となった。
テレビが一つの時代を終えて、「テレビ史」がおぼろげな輪郭をもって浮かび上がりつつあるが、そのなかで『すばらしい世界旅行』は特異な位置を占めることだろう。テレビは国内向け(内輪)のメディアであり、市岡さんの作品も当然、日本の視聴者と体験(感情)を共有しようとするのだが、そこだけに留まらないからである。この番組の放送が始まったのは1966年。近代化の波が世界各地に徐々に押し寄せるなかで、より遠くへ、より奥地へとカメラを運び、近代化以前の人々の暮らしをカメラに収めようとした。そして、ベルリンの壁が崩壊し、「近代」が世界を覆い尽くし、自由に世界を移動できる時代が到来したと考えられた1990年、この番組は終わりを迎える。
それから26年。今、これらの作品を見返した時、伝統的な儀式が森林、海や川といった自然環境のなかで生きることと分かちがたく結びついていたことに改めて気づかされ、民族や文化の違いを超えて人間や社会とは何かという根本的な問いを考えさせられる。
また、現地の人たちにとっても自らの伝統や社会、深層の文化を見つめ直すための貴重な映像であることだろう。(藤田修平)