タブーから社会を見つめる“鬼のドキュメンタリスト”安達かおる。
サブカルチャー文脈を中心にカルト的な人気を誇るAVメーカーV&Rの創設者にして、現在も数々の過激作品を世に送り出し、近年ではアートや音楽等の他ジャンルとのコラボレーションもおこなっているドキュメントAV界の巨匠である。
カンパニー松尾、バクシーシ山下など、個性的なAV監督を輩出し、さらには平野勝之、井口昇、高槻彰などの監督作品でも知られるV&Rは、安達かおるの“作家性へのこだわり”によってできている。安達自身、「性と生(死)」をテーマに、死体ビデオとして知られる『デスファイル』シリーズや、「暴力」「動物」「老い」「排泄」を扱った作品を多く手がけてきた。
製作から約20年の“お蔵”を経て、このたび公開されることとなる『ハンディキャップをぶっとばせ!』も、安達監督によるタブーへの挑戦といえる。しかし本作は、他の安達監督のAV作品にみられる「タブーを笑い飛ばす」といった要素は影を潜め、監督自身によるナレーションをベースに、丹念なインタビューをまじえながら、淡々と「障害者とセックス」の問題に向き合っている。その姿勢からも、安達かおるの本作への並々ならぬ意識が感じられる。
しかしその思いとは逆に「当事者としての障害とセックス」の試みは、ビデオ倫理協会によって、「障害者が出演しているから」という理由で審査拒否、すなわち発禁処分とされてしまう。そのことによって、障害者とセックスの問題を扱うことの困難さを改めて世に問うこととなった本作が20年の沈黙を破り、ついに公開される。
『ハンディキャップをぶっとばせ!』(1993年/92分/V&R PLANNING) ※18歳未満の方はご覧いただけません
この作品の主役は、それぞれに身体的な障害をかかえた3人の青年たちである。彼らは、セックスがしたい、女性に触れてみたいという一心で自ら応募してきたのだった。彼らは「障害がある」というだけで、女性と深く触れ合うことができない。では何故、障害者のセックスや性の問題は隠され、否定されなければならないのだろうか?平等とは六法全書の中だけで、生きとし生けるものは差別が大前提。平等を目指したり、差別をなくすと言うより、人間は差別者である事をまずは認めよう。自覚無き差別が一番怖い。そのような「障害者とセックス」のアポリアに、“鬼のドキュメンタリスト”安達かおるが真正面から対峙する。
3人のかかえる障害は、手足が不自由、背が低い、全盲とそれぞれに異なる。障害が異なるのと同じように、彼らの人間性や性に対する願望も当然それぞれ別のものである。なのに彼らは「障害者」というレッテルでまとめられ、優遇や介助というかたちで、囲い込まれているという現状が浮かび上がってくる。
彼ら3人や関係者へのインタビューから明らかになるのは、イジメや差別の経験と同時に、性的な存在としての否定であり、セックスからの隔離状況だった。確かに身体の不自由な彼らは、みんながしているように自由にセックスをすることはできない。
初めて女性に触れる彼らは好奇心旺盛で、不思議なものを見るかのように夢中で相手と向き合う。しかし、安達監督はそんな彼らの認識の甘さをも暴きだすことになる。
果たして、ハンディキャップをぶっとばすの誰なのか!?
安達かおる監督
ゲスト:熊篠慶彦(特定非営利活動法人ノアール理事長)、佐々木誠(映画監督)