ゼロ年代ヴィデオアートを牽引する河合政之の知られざる上映作品を一挙に上映する。ヴィデオ・パフォーマンス、イベントオーガナイザーとは違った河合のヴィデオ上映作品から、その足跡をたどる。
哲学的言説によるスペクタクル批判、空間・建築的アプローチ、ノイズ/フィードバックに至るまで、ヴィデオアートの可能性を極限まで盛り込んだ< 全方位ヴィデオアート>とも言える作品群を堪能する。
また初回には映像分野でも別な視点を持つ、金子遊氏を、第二回には映像と同じ時間芸術でありながら身体表現の分野で活躍する手塚夏子氏をゲストに河合政之とのゲストトークを行う。
<トークゲスト>
・12/15(日)vol.1:金子遊、河合政之※終了しました。
・1/26(日)vol.2 手塚夏子(ダンサー、振付師)、河合政之
[プログラム]
Vol.1 交錯するヴィジョン―都市・歴史・革命をめぐって
1.”a not = a or For Devatas Who Keep On Dancing”
“a not = a あるいは踊り続けるデヴァタたちのために” (2000 16min.)
スペクタクル的都市< 東京>の保守的な若い女性たちのイメージ上に、< アンコールワット>の廃墟に装飾される女神< デヴァタ>が重ねられる。同一律「a = a」を否定し、日本の伝統的な時間・空間の感覚である「間」を用いて、一般的な時間・空間の感覚から個別の契機を解放する。
2. “About a Theological Situation in the Society of Spectacle”
“スペクタクルの社会における神学的状況について” (2001 6min.)
情報社会においてメディア上のイメージたちは象徴として存在しているのではなく、 消費者が参照・同一化するための寓意として遍在する。その批判のためのアナロジーとして、アウグスティヌスの神学より< 三位一体論>を応用し、スペクタクル社会それ自体の廃墟を幻視させる。
3. “Man’yo/Tokyo”
“万葉/東京”(2004 23min.)
万葉の時空間から逆照射された、情報時代の東京の都市風景における「時」についてのビデオ作品。古代と現代という二つの「時」の交通によって、歴史の間隙があらわれる。トーキョーワンダーサイト委嘱による渋谷の公共空間ヴィデオインスタレーション用として制作された作品。
4. “IN/OUT” (2009, 5min.)
パリ郊外にあるル・コルビュジエの有名な建築、サヴォワ邸で撮影された本作は、「内と外」のテーマが、シンプルでゆっくりとした映像の動きの中にさまざまなかたちで密かにあらわれる。アーティスト派遣プログラムにてパリCite International des arts およびLe Cube にて滞在制作。
Vol.2 不在者との出会い―物語・イメージ・聖性をめぐって
1.”De Visione Absentis (不在者を観ることについて)”(2004 37min.)
中世の宗教思想家ニコラウス・クザーヌスの著書「神を観ることについて」からテキストを引用し、「神」を「不在者」に置き換えて我々との関係を解き明かそうとする。我々が不在者を観ようとするとき、不在者も我々を観ている。
2.”Who are these wanderers, even more transient than we ourselves?
(われわれ自身よりもさらに儚い、このさまよえる者たちは誰か?)” (2007 40min.)
白い洗面室。ベージュの寝室。赤い居間。黒い書斎。不在の空間に、束の間の邂逅の余韻が、木霊のように響いている。だがやがて時がすべてを飲み込んでゆく。と同時に、儚さの印象が薫りのようなものとなって、時の流域を充たしてゆく。
作者N.Y.滞在中に制作した中篇作品。
河合政之(Masayuki Kawai)
ヴィデオアーティスト。1972年生まれ。1990年代より哲学的かつ先鋭的な映像作品を制作、世界30か国以上で上映活動を展開。オーバーハウゼン国際短編映画祭など出品・受賞多数。文化庁派遣ほか各種財団の招聘でN,Y.、パリ、イスラエルなどで滞在制作。展覧会、シンポジウムなどの企画や、Visual philosophyのコンセプトにもとづくプロジェクト
[を主宰、『僕らはヴィジュアルで思考する-シームレス・メディアの時代とvideo art』(現代企画室、編共著、2013年)刊行ほか、ヴィデオアート、実験映画のDVDのプロデュースを行う。]
http://masayukikawai.com/
Guest Profile
金子遊(Yu Kaneko)
映像作家・批評家。慶應義塾大学、映画美学校非常勤講師。専門は実験映像とドキュメンタリーで、「現代詩手帖」にて「映像詩の宇宙」を連載中。劇場公開作に『ベオグラード1999』、『ムネオイズム~愛と狂騒の13日間』がある。編著に『フィルムメーカーズ 個人映画のつくり方』、『逸脱の映像』(松本俊夫著)、『吉本隆 明論集』など。共著に『アジア映画の森』、『アジア映画の最前線』(作品社、11月刊行予定)、『このショットを見よ』など多数。ドキュメンタリーマガジ ン「neoneo」編集委員。
手塚夏子(Natsuko Tezuka)
ダンサー/振付家。’96年よりマイムからダンスへと移行し、既成スタイルではない試行錯誤をテーマに活動を続ける。’01年より自身の体を観察する『私的解剖実験シリーズ』始動、その成果を翌年「トヨタコレオグラフィー・アワード・ファイナリスト」として上演。N.Y.、シドニー、ベルリン、ポーランド、ジャカルタ など各地で交流と上演を行う。独自の手法でコンテンポラリーダンスに取り組むアーティストと対話をし、その手法について思考し体で試行する「道場破り」や、体をテーマに建築家や鍼灸医とのトーク、観客を巻き込んで実験を試みる「からだカフェ」など自ら企画。’10年より国の枠組みを疑って民俗芸能を観察する試みAsia Interactive Researchを始動。